研究内容

 1.タンザニアの疎開林地帯に暮らす

    チンパンジーの生態と行動

 チンパンジー(Pan troglodytes)は,アフリカの熱帯雨林地帯を分布の中心としつつも,乾燥した疎開林地帯にも生息しています.本調査地であるタンザニアの疎開林地帯はチンパンジーの生息域の中で最も乾燥している地域の1つです.

 疎開林地帯では, 木がまばらな疎開林が86%を占めており,常緑林は2%のみです.熱帯雨林にはいない大型肉食獣であるライオンが生息しています.また,乾季には多くの川の支流が干上がるような非常に乾燥した環境です.



疎開林地帯のチンパンジーの頭数

チンパンジーは毎晩樹上にベッドを作ります.このベッドを調査し,Bed Count法とDistanceプログラムを用いて,タンザニアの疎開林地帯各地のチンパンジーの頭数を算出しました.チンパンジーは0.01-0.12頭/km2で,70年代に比べて減少していました.

Yoshikawa, M., Ogawa, H., Sakamaki, T., & Idani, G. Population density of chimpanzees in Tanzania. Pan Africa News, 15(2): pp 17-20, 2008

どこで眠るか

ベッドと植生データ,地形データや衛星画像を地理情報システム (GIS)と画像解析ソフト(ERADAS Imagine)で分析をして,一般化線形モデルを使い,泊り場の環境を分析しました.疎開林地帯ではチンパンジーは常緑林と傾斜地の樹上によく泊まっていました.捕食回避や飲み水の確保といった要因が関係すると考えられました.

吉川翠, 小川秀司, 小金澤正昭, 伊谷原一 タンザニアの乾燥疎開林地帯に生息するチンパンジー(Pan troglodytes)の泊り場選択 霊長類研究 28(1): pp3-12. 2012

Ogawa, H., Yoshikawa, M., & Idani, G. Sleeping site selection by savanna chimpanzees in Ugalla, Tanzania. Primates, 55: pp269-282, 2014

何を食べるか

糞分析を中心にチンパンジーの採食品目を調べました.同時に長さ10km・幅4mで植生調査をし,疎開林地帯の樹種・食物の分布を調べました.2週間に一度果実量等のフェノロジーを1年間記録し,食物が欠乏する時期を探りました.

 疎開林地帯のチンパンジーは果実を中心に,葉,根,茎,虫等を採食しましたが,品目数は少ないことがわかりました.草本の果実であるAframomum spp.をよく採食していました.熱帯雨林に比べると動物を狩って肉食をする事は少ない傾向がありました.

Yoshikawa, M. & Ogawa, H. Diet of savanna chimpanzees in the Ugalla area,Tanzania. African Study Monographs, 36(3): pp189-209, 2015


2.冷温帯のニホンジカと餌植物(修士論文での研究)

 

 冷温帯に生息するニホンジカ(Cervus nippon)の餌植物の研究をおこないました.

森林地帯でシカの過食圧がかかるにつれ,ニホンジカは,森林植生をかえ,種や生態系レベルでの生物多様性の低下をもたらしています.豊かな自然環境を保全するためにも森林地帯においてシカとの共存を考える必要性が急務となっています.そのためには,森林の持つ環境収容力を明らかにする必要があります.

 森林地帯における環境収容力を明らかにする一環として,群馬県の山地で,植生調査,植物の現存量調査,シカの採食植物の利用可能量の調査を行いました.加えて,植物の成長に関係する光量子束密度,土壌のCN比調査,さらにシカの採食植物の栄養分析(NDF,CP,カロリー)をおこなってきました.

3.発育過程におけるラットの脳内のプロラクチンレセプターmRNA発現量の変化と,新生仔ラットの脳においてミルクにより発現誘導される遺伝子の探索.(卒業論文での研究)

 

 プロラクチン(PRL)は脳下垂体で合成・分泌されるホルモンで,妊娠の維持,乳腺発育などに関連する以外に,乳仔との接触やストレス刺激時にも血中PRL濃度が上昇し,脳に作用し母性行動の誘導やストレス耐性の増強に働くといわれています.

 発育段階におけるPRLが脳に作用する時期を明らかにするため,脳内のプロラクチンレセプター(PRL-R)の発現量を調べたところ,出生直後から発現し,4週齢まで増加することが明らかになりました.PRLは授乳期の仔ラット自身はほとんど合成しませんが,母親は大量に分泌しており,母親由来のPRLが,母乳を介して仔ラットの体内に移行することが知られています.本結果から,母乳中のPRLが仔ラットの脳のPRL-Rに作用し,脳機能の発達に重要な役割を果たしている可能性が考えられました.

 また母乳中のPRLの脳への作用を明らかにするため,母乳を飲んだ後の仔ラットの脳において,特異的に発現する遺伝子をmRNAとして探索することを試みました.分析に用いた22種のcDNAプローブのうち7種でmRNAが検出されました.ただし,母乳を飲んだ後のみで発現が増加しているものではなかったため,さらに,ノーザンブロット分析による探索や感度の高い分析を行なう必要があると考えられました.

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